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静岡地方裁判所 平成3年(ワ)193号 判決

原告

長谷川史則

ほか一名

被告

鈴木健二

主文

一  被告は、原告両名に対し、それぞれ金一一一五万五一四一円及びこれに対する平成二年六月三日から各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の、その余を原告らの負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、各々金二一一〇万七〇五二円及びこれらに対する平成二年六月三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実など

被告は、平成二年四月二〇日午前三時ころ、普通乗用自動車を運転して、神奈川県相模原市二本松二丁目二五番一三号地先を進行中、進行方向右側のT字型交差道路から被告進行道路を横断しようとした長谷川岳史運転の普通乗用自動車の左側面に自車前部を衝突させて、同人に脳挫傷等の傷害を負わせ、同人を同年六月三日午後七時一分脳挫傷により死亡させた。このため、同人の父原告長谷川史則と母原告長谷川玲子とがそれぞれ二分の一ずつ相続し、また固有の損害を負つたため、被告に対し、民法七〇九条、七一一条に基づく損害賠償責任を追及している。

二  争点

原告らの損害額、特に岳史の逸失利益及び過失割合

第三判断

一  事故態様(証人丹羽鉄也、甲一ないし四、六、乙三、一三、一六、一九)

1  本件事故現場は、被告進行の橋本方面(東方)から津久井方面(西方)に通じる制限速度毎時四〇キロメートルで黄色実線の中央線はみ出し禁止の幅員約七メートルの直線道路と岳史進行の町田方面(北方)から南進する幅員約六メートルの道路とがT字型に交差する交差点であり、町田方面から同交差点入口には、一時停止の道路標識と道路標示とが存在し、交差点付近には街路灯が点在設置されていて、被告進行方向の見通しは良い。

2  岳史は、本件交差点の一時停止線を越えて横断歩道上に一時停止した後、交差点を越えて対面の駐車場に向かつて時速約五ないし一〇キロメートルで交差点に進入した。

3  被告は、本件事故現場付近を飲酒のうえ(事故の一時間後に呼気一リツトル中約〇・二〇ミリグラムのアルコール濃度)無灯火で時速約七〇キロメートル程度で進行中、衝突地点の約六三メートル手前では岳史運転車両を視認せず、約四一メートル手前で発見し、約二〇・九メートル手前で危険を感じ急ブレーキをかけたが岳史運転車両左側に衝突し、同車両を約二二・八メートル前方に押し出し、被告車両は、約二一・三メートル進行して停止した。

4  したがつて、被告は、交差点を進行するに際し、交差道路からの通行車両に注意し、安全な速度で進行する注意義務に違反して、無灯火で前方注視を怠り、制限速度を約三〇キロメートルも超える速度で進行した過失があることは明らかである。(乙一七は信用できない)

二  損害額

1  逸失利益 四九三四万二九九三円

岳史は、本件事故時満二〇歳の健康な大学二年生であり、大学卒業後の満二二歳から満六七歳まで四五年間稼働可能であつたから(原告長谷川玲子)、平成二年度賃金センサス第一巻第一表の大学卒・全年齢平均の男子労働者の年収額である六一二万一二〇〇円を基準に、生活控除割合五〇パーセント、中間利息の控除をライプニツツ方式(係数一六・一二二)を用いて逸失利益を算出した四九三四万二九九三円が相当である。

2  慰謝料 一六〇〇万〇〇〇〇円

岳史は、原告らの長男で将来ある大学生であつたにもかかわらず本件事故後一か月半ほとんど明確な意識が戻らないまま入院中死亡した(原告長谷川玲子)ことなどからみて、慰謝料額は一六〇〇万円(そのうち岳史の慰謝料一〇〇〇万円)が相当である。原告ら主張の岳史及び原告ら固有の慰謝料合計額三〇四四万四〇〇〇円は採用できない。

3  治療関係費(争いない) 三三四万八九二七円

4  入院雑費 五万四〇〇〇円

一日当たり一二〇〇円が相当であるから、入院期間四五日間(争いない)分で五万四〇〇〇円が相当である。

5  葬儀費用 一〇〇万〇〇〇〇円

原告らが葬儀を行つてその費用を負担したことが明らかであるから(弁論の全趣旨)、葬儀費用として一〇〇万円を相当と認める。

6  過失相殺

岳史は、交差点入口において一時停止したことは認められるが、深夜、優先道路を横断するのであるから、特に慎重に左右の安全確認を行うべきであつたといえ、同人には左方の安全確認不十分な不注意が認められる。本件事故態様からすると、過失相殺率は三〇パーセントとするのが相当である。

7  損害填補額(争いない) 二八五一万一八六二円

8  弁護士費用 二〇〇万〇〇〇〇円

弁護士費用相当の損害金としては、二〇〇万円と認めるのが相当である。

三  右認容の限度で原告らの請求を認めることとする。

(裁判官 安井省三)

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